水辺農園だより
Vol.7 2020年10月


10月は、毎日のように天気予報を見ていた。
1日に何度もチェックし、さまざまな天気予報を見比べていた。
何日間晴天が続くのか、いつ雨が降り始めるのか、天気予報も刻々と変わるので、いつもチェックしていた。

天日干しの場合は、脱穀のタイミングがとても重要で、雨がふるとせっかく乾燥したモミがまた濡れてしまう。何日間か晴天が続き、十分に乾燥し、雨が降る前に脱穀したい。だからタイミングを見極めるのがとても重要になってくる。

10月6日と7日に、はじめに稲刈りをした田んぼを、一部だけ脱穀した。翌日は雨で、しばらく脱穀はできなくなるが、一部脱穀したおかげで、水辺農園の今年のお米が食べられるようになった。

今年のお米の味を、はじめて確かめるときは、やはり緊張する。
おいしくなるように手は尽くすが、本当においしいかどうかは、食べてみないと分からない。そして、食べた瞬間に分かってしまうものだ。

茶碗に盛って、しげしげと眺める。
粒が大きく、ツヤがあって、透明感もある。いかにもおいしそうだ。
手を合わせ、いただきますと言って、一口食べる。
食べた瞬間に、大丈夫だと分かりほっとした。大丈夫だ、このお米なら多くの方に食べてもらっても大丈夫だとわかり、心底ほっとした。

自分たちが食べる分だけ作るのなら、ほっとするというよりも、ただおいしいと喜んで食べただろう。
今年から私たちは就農し、水辺農園という農園を始めた。自分たちではとても食べきれない量のお米を育てた。そのお米を売って、生計を立てていくのだ。自家用に育てていた頃とは少し違う。
それでも原点には、自分で育てたお米を、はじめて食べた時の体験がある。

5年前に、自分で育てたお米を、はじめて食べるという経験をした時に感じた、あの言葉にならない感情は忘れられない。
お茶碗に盛って、手を合わせていただきますをして、一口食べて、妻と目を合わせ、言葉にならない。何か深く心が震えて、泣きたくなるようなものがあって、それでもやはり言葉にすると、おいしいとしか言えないので、おいしいおいしいと言いながら、続けざまに何口も食べたあの時の体験が忘れられない。

あの体験は一体なんだったのだろうか。何か「ほんとうのこと」に触れている気がしていた。なかなか触れることのできない、「ほんとうのこと」に、自分が育てたお米を食べるということを通して、不意に触れてしまっている気がしていた。
あの体験は、私たちがお米を作り続ける原動力になっている。そういうことがたまにある。そういう体験は、心に深く刻まれて、それからの生き方を大きく変えていってしまう力がある。


翌日から籾摺り、精米して、袋詰めして、荷造りして、発送した。
ありがたいことに多くの方から予約をいただいていて、次々に発送していった。

そしてお米が届いた友人たちからおいしいと連絡があって、とても嬉しかった。
同時にとても不思議な感じがした。つい先月までは木崎湖畔の田んぼに生えていた稲が、遠くの友人たちの食卓の上にあるということが、とても不思議に感じられた。

近くの方にはお届けに回った。
少し話したり、ゆっくり話したりしながら、多くの方にお米を届けて回るのも楽しい時間だった。
お米を中立にして、多くの友人との繋がりが生まれていくことは、春から頑張ってお米を育てたご褒美のような感じがしていた。

10月14日15日16日と、残りの田んぼの脱穀も終わらせた。
袋に詰められたモミが、倉庫に何段にもなって積まれて、田んぼは空っぽになった。

全ての袋の重さを測り、今年の収量がわかった。
今年は、予想よりも1割ほど少なかった。7月の長雨が影響したのかもしれない。それでも倉庫がほぼいっぱいになった様子は嬉しくて、無事にようやくここまで来れたとほっとした。
そして、全部の収量が分かってから、予約をいただいた量と照らし合わせると、もう8〜9割ほどは行く先が決まっていることがわかった。こんなにありがたいことはない。去年から比べて面積が4倍に増えていたので、こんなに大量のお米が、果たして行先が決まるのだろうかとかなり不安に思っていたので、本当にありがたかった。

それからはひたすら、発送、お届けに追われた。
倉庫に積まれたお米は少しづつ減っていき、各地から、お米が届いた連絡があり、おいしいという感想もたくさんいただき、それが、春から頑張ってお米づくりをしたご褒美のように感じて、なんていい仕事なんだろうと思えた。農業は本当にいい仕事だと、心から思えた。

春からの全ての仕事が楽しかった。
種まきや育苗、田植えや草取り、毎日の水管理、稲刈りや脱穀、発送作業、どの作業も大切で、気が抜けなく、そして根底には幸福感があった。それは、土の上にいる、太陽の下にいるということからくる幸福感であり、多くの方との関係の中で、仕事をさせてもらっている幸福感だった。

発送お届けがひと段落したら、ハゼ棒を片付けて、脱穀を終えたワラを、機械で細かく刻んで田んぼ均一に撒いていった。このワラがゆっくり分解され、来年の稲作に向けての土づくりになっていく。

来年はどんな稲を育てていくのか。
水辺農園はこれからどのように育っていくのか、
やりたいことは山ほどあって、ときおりワクワクして眠れなくなる。


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