水辺農園だより
Vol.13 2021年4月

種もみを水に半月ほど浸けて、水を十分に吸わせる。
やがて一部だけ自然に発芽してくる。そうしたら、25℃のぬるま湯につけ、しばらくすると一斉に発芽してくる。
このことを催芽というのだが、普段食べていたお米が「タネ」だったと知ることができる瞬間で、初めて芽が出ているのを見た時は驚いた。一粒一粒すべてがちゃんと発芽していて、そうかタネを食べていたのかと、深く驚いたことを思い出す。

種もみの先から芽がごくわずかに出ている様子は、何度見てもやはり驚きがある。
こんな小さな種から、どういう摂理で芽が出て、根が出て、成長していくのか、不思議でしかない。
そして、発芽するときは、特有の匂いもする。甘く、生々しい匂いだ。

苗箱に土を入れて、播種機に催芽した種もみを入れて、種まきをして、覆土した。
今年は300箱ある。去年よりも100箱以上増えた。
天気予報では、種まきをした日から5日間ほどは天気が良く、気温も高かった。

去年はコンテナハウスの一部を仕切って、そこに苗ばこを積み重ねて、暖房を入れて芽出しをしたのだが、今年は思い切って、田んぼに直接苗ばこを平らに並べて、灌水して、シートをかけて芽が出てくるのを待つことにした。

絶対に大丈夫、そのうちちゃんと出てくると分かってはいるのだが、灌水は十分だっただろうかとか、早朝の温度が低すぎて、障害を受けてないだろうかとか、やはり心配になる。だから、4日目の朝に、一ミリほどの小さな芽が土の中から出ているのを確認した時はほっとした。

それからは鞘葉から不完全葉、本葉1葉、本葉2葉と順調に育っていった。霜がおりる予報の寒い日には、水をたっぷり入れて冠水させてしのいだ。
本葉2葉がではじめた頃に、シートをはがして、水を入れて、プール育苗を開始する。
これで病気の心配もほぼなくなり、ほっとする。育苗では何度もほっとする場面がある。

ハウスではなく露地で育苗をすると、オケラやカエルに苗をほじくり返されたりするが、徒長の心配がなく、病気にもなりにくく、寒さに強い、茎の太い苗になる。

育苗をしながら、並行して、田んぼの準備も進めていた。
畦塗りをして、春おこしをして、田んぼの四隅がどうしても高くなってしまうのでスコップなどで直して、水路の土砂を取り除き、田んぼに水を入れ、代かきをした。
水を入れた翌日に、もうカエルの卵がたくさん産卵してあった。土の中で待ち構えていたのだろうか。


今年の春は、育苗と、田んぼの準備と、そしてもう一つ並行してやることがあった。地元で開催される北アルプス国際芸術祭の展示作業だ。私は今まで撮ってきた大町の水源域と田んぼの写真を展示することになっていた。

昨年開催の予定が延期になり、今年の秋に開催される予定だが、5月に先行公開展というのをやるそうで、その中に私も入っており、それまでに展示を完成させないといけなかった。

市内の蔵に展示予定で、ずっと準備はしていたのだが、蔵の掃除などに予想以上に時間がかかり、ぎりぎりになってしまっていた。

だから4月は田んぼの仕事と展示の仕事で、本当に忙しかった。
どちらも少しも気を抜けない仕事だったが、それでも、二つの違う仕事をしているという感じはなかった。
農作業と写真の展示、実際にやっていることは確かに違うのだけど、どこかで同じことをしていると思っていた。もしそう思えなかったら、とても両方はできなかっただろう。

同じことをしていると思えたことは、思いのほか嬉しい発見でもあった。
私がしてきたこととして、自転車旅があり、水源域の撮影があり、農業がある。それらは、実際にはだいぶ違うことをしているのだが、根底に流れているものは同じで、その一つの流れをとおして、ずっと手探りで求めているものがある。それをどうにか言葉やイメージにして、差し出したい。おそらくこの水辺農園だよりで試みていることも、同じことなのだろう。

展示のタイトルは「水と光」とした。
水源域と稲の写真と映像の展示だ。
この二つの光景を、同時に展示できることが嬉しかった。
まだ展示は完成していない。開催直前まで手を入れて、少しでもいいものにしたい。


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