水辺農園だより
Vol.12 2021年3月


3月上旬に、田んぼに米ぬかを撒いた。
反あたり100kgほど。肥料としてはとても少ない量だと思う。肥料というよりも、田んぼの微生物に頑張ってもらうためという意味合いが大きい。去年は反あたり150kgだった。少し減らしたが、収量や味がどうなるのかはよくわからない。土づくりをどうやっていくか、肥料はどう考えるのか、まだ試行錯誤している。

そして3月20日、春分の日に塩水選を行って、今年のお米づくりが始まった。
就農してからは2年目、お米づくりを始めてからは6年目になる。
昨年も春分の日に塩水選を行った。春分の日にお米づくりを始めるのは気持ちがいい。
とうとう始まったという気持ちになる。

去年収穫したもみを塩水につけて、浮くもみを取り除き、沈んだもみを種もみとして使う。
充実してなかったり、もみと玄米の間に隙間があると浮くので、健康で元気なもみだけを選んで、今年の種もみとして使う。

今年は10Lあたり2.8kgの割合で、比重1.17(ボーメ度21)の塩水を40L程作って、塩水選をした。かなり濃い塩水なので半分ぐらい浮くかと思ったら、3割程しか浮かなかった。
塩水選をした後、水でよく洗って、天日干しをする。浮いたもみも洗って干して、自家用で食べるお米にする。

数日間天日干しをしてよく乾燥したら、次は温湯処理だ。
60度のお湯に7分間ほど種もみをつけて、消毒する。塩水選だけでもほぼ病気になる種もみは取り除けているのだが、より確実にするために温湯処理も行う。温湯処理をすると、発芽抑制物質が流されて、発芽がよく揃うという効果もある。

温湯処理をしてから、ネットに入れた種籾を、水を入れた大きな容器に入れる。二週間ほど水につけて、十分に水を吸わせる。毎日水は換える。十分に水を吸収して、少し水温が高くなれば、この種もみたちは一斉に芽を出してくる。

今は種もみたちは静かに水の中に沈んでいて、ゆっくりと水を吸っている。言わば、今は胎内にいるようなものだろうか。
今年使う種もみは15キロほど。これが秋に無事収穫できたとしたら3000キロほどになるはずだから、すごいことだ。想像すると頭がクラクラする。

その種もみの中には、自給用の田んぼをやっている家族から頼まれた苗の分もある。去年は2家族からだったが、今年は6家族に増えた。
苗作りは、昔から苗半作という言葉もあるように、お米づくりの半分かそれ以上に重要で、油断すると全滅ということもあり得るので、かなり気を使う。一年の内で一番気を遣う時期だ。

自分の農園の分だけでなく、頼まれた苗もあるのはプレッシャーではあるのだが、失敗できないというのは自分の農園の分だけでも変わらなく、プレッシャーの量も変わらないと思って、引き受けている。
有機栽培の稲の苗は手に入りにくい。代わりに引き受けることで、田んぼを始めるハードルを下げて、仲間が増えてくれるのは嬉しいことだ。

きっとこれからもっと、自分が1年間食べる分のお米は自分で作りたいという人が増えてくるだろう。
お米作りは、あらゆる面でとにかく楽しい。この楽しさ豊かさは、農家だけが経験するのはもったいない。より多くの人が経験してほしい。農家として、そのためのお手伝いをしていけたらいいと思っている。

これから畦塗り、春おこし、苗床づくりなどをやり、4月中旬から下旬にかけて、種まきをする。種まきをしたら、生まれたての赤ちゃんのように目が離せなくなる。

水辺農園の2年目のお米作りは、どうなるのだろうか。
不安はあるけれど、やるべきことをやって、条件さえ整えば、あとは種自身が、その自然の摂理に従って発芽し成長するはずだから、失敗はありえないという思いもどこかにはある。そういう、自然の摂理への信頼がなければ、農業はできない。

この不安と信頼が折り重なった、祈るような気持ちとともに、春を迎えられるのはいい。きっとこの感情は、はるか昔から先人が感じてきたことで、そこから多様な文化や自然観が育まれていったのだろう。その連なりに加えさせてもらえているのが嬉しい。

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